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大阪地方裁判所 昭和24年(ワ)1250号 判決

原告 長谷川米一

被告 長谷川礼子

一、主  文

別紙物件表<省略>記載の物件について、原被告が各二分の一の持分の共有権を有することを確認する。

被告が原告に対し別紙記載の物件について右共有の登記をなすことを命ずる。

別紙記載の物件を競賣に付し、その競賣得金を原被告に各二分の一宛分配する。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求の原因として「訴外長谷川甚藏は原告の父長谷川米藏の弟であつて、原告家から分家した者であるが、昭和二十年三月二十九日法定の推定家督相続人なく且つその指定を爲さずに死亡した。そこでその相続財産について親族協議の結果原告の方と右亡甚藏の妻の生家たる樋口家とに平分することとなり、その分配を受くべき者を原告及び被告(亡甚藏の妻の妹の夫言美栄次郎の三女)と定め、先ず親族会において昭和二十二年十二月十四日甚藏の家督相続人として被告を選定し、同日相続財産たる別紙物件表記載の物件について原被告間に、これを平等の割合をもつて原被告の共有とし(贈與)早急にその共有登記手続を行う、との約が成立しその旨の書面が作成せられた。然るにその後被告は右の約を履行せず原告の共有権を爭い勿論右共有物の分割の協議も調わない。原告はそのため被告を相手方として昭和二十三年八月大阪家庭裁判所に対し調停の申立をしたが、これも不調に了つた。そうして右物件たる土地はその大部分がその上に家屋などが建設せられてあり、物件全部が現物をもつて分割することができず又は分割によつて著しくその價格を損ずるものであるから、原告は被告に対し、右共有権の確認と前約による共有登記手続を求め、併せてその分割のための競賣の許可を求める。」と陳述し、被告の抗弁事実を否認した。<立証省略>

被告訴訟代理人は請求棄却の判決を求め、答弁として、「原告主張の事実のうち、訴外亡長谷川甚藏が原告の父長谷川米藏の弟であり、原告方から分家した者であつて昭和二十年三月二十九日法定の推定家督相続人なく且つその指定をも爲さずに死亡したこと、その親族会において被告が昭和二十二年十二月十四日その家督相続人に選定せられたこと、同日原被告間に右亡甚藏の相続財産たる別紙物件表記載の物件を原被告の共有とすることなどを内容とする契約が成立し、その旨の書面が作成せられたこと、原告が昭和二十三年八月被告を相手方として大阪家庭裁判所に調停の申立をなし、右調停が不調に了つたことはいずれもこれを認めるけれども、その余はこれを否認する。右契約は以下述べるように原告及び訴外長谷川善五郎が被告を亡甚藏の家督相続人に選定することの代償として被告に強要して締結せしめたものであるから、民法第九十條により無効であり、又は同法第九十六條により本訴においてこれを取消す。即ち亡甚藏は被告を養子となすべく養子縁組手続中その完了しないうちに死亡したので、止むなく家督相続人選定のための親族会が招集せられたのであるが、その招集申請手続の際被告の母の依頼を受けた代書人が申請人として原告の名義を使つたことから、原告はこれを文書僞造として被告の母を大阪地方檢察廳に告訴するに至つた。右告訴はその後取下げられたが親族会の席上原告及び親族会員長谷川善五郎は被告を右家督相続人に選定することの代償として甚藏の相続財産を分與することを求めて止まず、ために親族会は数度の会合を重ね遂には親族会決議に代わるべき裁判を求めようとするまでに至つたが、被告としては故人の意思の損われることを恐れ、止むなく右原告等の要求に從うこととなり親族会決議と同時に前記契約を締結したのであつて、要するに原告等は被告が故人の意思に反する結果の生ずべきことを憂えているのを奇貨とし、これに乘じてその野望を遂げようとし先ず被告の母を告訴し次いで親族会員たる地位を濫用して家督相続人選定と交換的に被告をして本件契約を締結するの止むなきに至らしめたのである。右のとおりであるから原告の本訴請求に應ずることはできない。」と陳述した。<立証省略>

三、理  由

別紙物件表記載の物件について昭和二十二年十二月十四日原被告間に、これをその共有とする、との契約成立し、その旨の書面の作成せられたことは当事者間に爭のないところである。

よつて被告の、「右契約は民法第九十條により無効であり又は同法第九十六條により本訴においてその意思表示を取消す。」との抗弁についてその当否を判断するが、そのうち右物件がもと訴外亡長谷川甚藏の所有であつて、同人は昭和二十年三月二十九日法定の家督相続人なく且つその指定をも爲さずして死亡し、被告が親族会において昭和二十二年十二月十四日その家督相続人に選定せられたこと(從つて被告が別紙物件表記載の物件の所有権を取得したこと)及び右選定が親族会員その他の関係者において前記の契約を原被告が締結すべきことを予め諒解せられた上で爲され且つその選定の当日右契約が締結せられたことはいずれも当事者間に爭がない。然しながら被相続人甚藏が原告の父長谷川米藏の弟であつて原告家から分家した者であること当事者間に爭がなく、また被告が右甚藏の妻の妹とその夫言美栄次郎との間の三女として生れた者であること証人言美栄次郎の証言によつて明らかであるから、亡甚藏とかかる親族関係にある原被告が前記経緯のもとに本件契約を締結したからといつて、それによつて被告を家督相続人に選定することを強制することが民法第九十條にいわゆる公の秩序善良の風俗に反するのは格別この契約(法律上は一種の贈與に該る)自体の履行を強制することは何等妨げられないものと解するのが相当であり、なお被告主張の全事実によつても右公序良俗に反するものと認むべきものがなく、また被告が右のとおり選定せられるまでに、原告が被告の母を文書僞造として告訴したこと及び親族会において会員の意見が一致せず数度の会合を重ね遂には親族会決議に代わるべき裁判を求めようとせられるまでに至つたことは、いづれも証人言美栄次郎の証言によつて窺知しうべく、この事実とさきに認定した当事者間爭のない事実とを総合すると右親族会における紛糾が亡甚藏の相続財産の配分に起因するものであることは容易に推察できるところであるけれども、かかる事実が当然に民法第九十六條にいわゆる詐欺強迫となりえないのは勿論、他に又はこれに関連して原告が被告をして本件契約を締結せしめるについて詐欺又は強迫たる行爲に及んだことを認めるに足りる証拠なく反て証人言美栄次郎の証言によつてもかかる事実の存しないことを窺知することができるから、右被告の抗弁は失当である。

そうすると被告は言辞を構えて右原告との間に成立した本件契約に基く義務の履行を拒もうとする者に外ならず、原告はこの契約によつて本件物件の共有権を取得したこと勿論であり、その持分は、他に反証のない本件にあつては原被告相均しいものと認むべく、なお被告は本訴においても原告の右共有権を爭つている(從て共有権の確認を求めるについて、原告は法律上の利益を有する)のであるから、被告に対し右持分による共有権の確認とその登記を求める原告の本訴請求部分は全部正当である。

次に被告は原告の右共有権さえも爭つているのであり又これについて原告が被告を相手方として大阪家庭裁判所に対し申立てた調停も不調に了つたこと当事者間に爭がなく、これらの事実に徴すると原被告には右共有物の分割について協議調わないものと認むべく、そうして又本件共有物件が土地及び建物であるから現物をもつて分割することが法律上不能であること言うまでもなく、よつてその分割を当裁判所に求め且つその分割のため右物件を競賣に付することを命ぜられんことを求める原告の請求部分もまた正当である。

以上原告の本訴請求は全部正当であるからこれを認容すべきものとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九條を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 竹内貞次)

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